雑食シネマライフ

全ての映画に敬意を。

【レビュー】キャプテン・フィリップス(原題: CAPTAIN PHILLIPS)

Look at me,Look at me,I'm captain.

映画はすべてフィクション

実話を基にした映画というのは鑑賞するのに非常に神経を使う。なぜなら実話を基にしたフィクションでしかないから。
ドキュメンタリーだってそう。事実と呼ばれるものはある人から見た「事実」でしかないわけで、そこには必ず観測者の意図が介入する。限られた上映時間の中で全てを描くことは出来ない。取捨選択が生じる。なのでこの映画を「事実」として観てはいけないと思う。でもそれは、この映画を楽しんではいけない、という事ではない。

 

 

この作品ではソマリア人を「ただの悪者」として描くことはせず、彼らが元々漁師であり、日雇いのような形で仕方なく海賊をやっている事情も描かれている。また、船長の英雄的行為だけでなく、船員の意見を無視して危険な水域の航海を敢行したこともしっかり劇中に挿入されている。

映画はあくまでエンタテインメント。ポール・グリーングラス監督お得意の臨場感あふれるサスペンスアクションをまずは素直に楽しむ。感覚的な刺激を受けた上で、観た人それぞれが問題意識を持ち、自分自身でこの事件の本質を探る。そのきっかけとなる要素をちゃんと描いている作品です。
何事も、面白くなければ興味持たないものね。

俳優の存在

トム・ハンクスの名優という存在感は明らかにこの映画の「ドキュメンタリータッチ」の邪魔をしています。名も知れない地味な俳優が演じた方が「らしさ」は出たのだろうなあと、ついつい思ってしまう。海賊役のソマリア人も映画に出演するのは初めてとのことらしいし、ハリウッド映画特有の洒落っ気も一切無いストイックな作品なので、どうしても、どうしても「俳優」の存在が気になる。
しかし、逆にこれほどの知名度でしっかりフィリップス船長として見れる俳優も「平凡なゆえに非凡」なんて形容されるトム・ハンクスくらいな気もします。極限状態の経験も多そうだし(『フォレスト・ガンプ』『キャスト・アウェイ』『ターミナル』『アポロ13』『プライベート・ライアン』…こうして並べるとやっぱりすごいトム・ハンクス!!)尚且つ大作としての箔もついた。
結果、やっぱりトム・ハンクス以外考えられない。じゃあ文句言うなよと。はい、いろいろ考えたら正解な気がしました。ごめんなさい。

 

劇場鑑賞上の注意

この映画で嫌だったことが一つだけあります。
後半、画が暗くてブレる映像がずっと続き、まさかの睡魔が…。眠い!
2013年大晦日の最終上映を一人で鑑賞。年越しロンリープレイ。精神的にも体力的にも追い詰められていたのかも。視覚情報が処理しきれなくて脳が諦めたようです。いち映画ファンの悲しき日常です。

人それぞれかと思うのですが、どんなに臨場感を味わいたくても、いつもより心持ちスクリーンから離れた位置で鑑賞するのをお勧めします。結構疲れるので。なるべくデカいスクリーンで前寄りの席で観るのが好きなんだけど、今回は失敗でした。ごめんなさい。

サスペンスと社会ドラマ

※ネタバレします。
緊迫感溢れるサスペンスアクションから立場逆転の社会ドラマへの切り替えが見事。

まず前半戦「貨物船VS海賊」での攻防戦がめっちゃ面白い。
海賊の接近を防ぐため、無線の傍受を逆手に取りガセネタをつかませる。波を立てて小船にダメージを与える。ホースで水の壁をつくる。侵入してきた海賊から身を守るためエンジンルームに立てこもる。船の電源を落とすため海賊から隠れて隠密行動(まるでメタルギアソリッド2、タンカー編のようだ!)とにかくサスペンスアクションとして超面白いこの前半戦。手に汗握る。これだけで一本の映画が作れます。

しかしここで終わらない。後半戦「海賊VSアメリカ海軍」。
船長はたった一人で人質に取られ、海賊と最後の最後まで極限状態を共に過ごす。
ヒーローは遅れてやってくる。アメリカ海軍、ネイビーシールズがたった4人の海賊相手に本気出す。
援軍に協力しながらも、海賊との親交も深めてしまいストックホルム症候群気味の船長。
勝つ見込みの無い戦いになったことを悟る海賊たち。
両者をバランスよく描くことで船長だけでなく海賊側への同情も誘う。
そして緊張の糸が途切れるラストシーンで、思わず涙がこぼれる。作中、命を落としたのは…。

善と悪なんて、現実の世界には存在しないのかもしれない。ただ、立場の違いが在るだけ。
ソマリア沖を裕福な先進国の貨物船が通り過ぎる。目の前を大金が横切る。そこには日本の船もいる。
映画を通して、興味を持つ、現実を知る。映画の重要な役割のひとつだと思いました。

 

スタッフ&キャスト

監督:ポール・グリーングラス
脚本:ビリー・レイ
製作:スコット・ルーディン,デイナ・ブルネッティ,マイケル・デ・ルカ
製作総指揮:グレゴリー・グッドマン,イーライ・ブッシュ,ケビン・スペイシー
原作:リチャード・フィリップス,ステファン・タルティ
撮影:バリー・アクロイド
美術:ポール・カービイ
編集:クリストファー・ラウズ
衣装:マーク・ブリッジス
音楽:ヘンリー・ジャックマン
キャスト:トム・ハンクス,キャサリン・キーナー,バーカッド・アブディ,バーカッド・アブディラマン,ファイサル・アメッド,マハト・M・アリ,マイケル・チャーナス,コーリイ・ジョンソン,マックス・マーティーニ,クリス・マルケイ,ユル・バスケス,デビッド・ウォーショフスキー