雑食シネマライフ

全ての映画に敬意を。

【レビュー】『嗤う分身』(原題:THE DOUBLE) 微笑ましいディストピア

手におえない理想の自分との対決を描いたブラックコメディ…。

序盤のシュールで淡々とした雰囲気は『1.0 【ワン・ポイント・オー】 』という映画を思い出し、後半は、まんまあの映画じゃん!な感じ

久しぶりにカルトな映画を観た!という満足感が得られた作品でした。






※以下ネタバレ有り

序盤

暗い表情をした主人公を追い続ける序盤は、わざとか?!と思うほど退屈な演出が続き、このままリンチ風の不条理劇になっていくのかなあと構えていたら、違いました。
IDを無くした主人公の惨めな日常をたっぷり描いた後は、彼と正反対の性格をもったドッペルゲンガーが登場し物語が一気に転がりだします。

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分身登場

現れる分身は同じ顔なのに着る服も同じ。これだと観る側は混乱しそうですが、ジェシー・アイゼンバーグは表情や歩き方で特徴を付け、どちらがホンモノか表現します。鑑賞者は「雰囲気」で別人として認識できてしまうし、劇中の登場人物も主人公とその分身を「存在感」で見分けることができます。
デキるニセモノとデキないホンモノ。
外見が全く同じであるがゆえ、ホンモノの孤独で冴えない人間性がより強調される…といったつくり。
主人公のダークサイドのような相手が敵役として登場し、その相手を倒すことで自分自身の負の部分に打ち勝ち成長を遂げる、そんな内容が物語の型としてあると思うのですが、この映画はその型をまんま映像で表現した感じでした。
とりあえず、お話の構造はフィンチャーの『ファイト・クラブ』にめっちゃ似ています。

世界観

感情が抑圧された孤独な人々やディストピアな世界観はギリアムの『未来世紀ブラジル』、神格化されている大佐や、単調な仕事模様などはオーウェルの『1984』を想起させます。
監督であるリチャード・アイオアディは『未来世紀ブラジル』や『アルファヴィル』に似ていると言われることがわかりきっていたので、むしろその方向性を避けるように意識したとのこと。
色の濃い作品は、他の色の濃い作品と比べられてしまうのは仕方の無いこと、悪い気はしない、と監督は語っています。

役者

ミア・ワシコウスカ演じるハナに思いを寄せる主人公は、望遠鏡で彼女を観察する変態さんなのですが、ジェシー・アイゼンバーグが演じることで妙にピュアに見えてしまう絶妙さが良かったです。『ソーシャル・ネットワーク』で身に着けた早口演技はニセモノの方でしっかりやっていたし、アイゼンバーグさまさまな作品でした。
(ただ最後の方では、本物と分身との区別がつきづらくなり、少々グダってしまいますが)

SEとBGMの境界線が曖昧なサウンド、唐突な昭和歌謡曲、シュールな笑いがなんだかクセになる、ほほえましい映画です。
私は大好物でした。
ドストエフスキーの原作も読んでみたいです。